岡山芸術創造劇場2020.12.25

岡山芸術創造劇場プレ事業 いどばたシンポジウム パネルディスカッション 概要

■「いどばたシンポジウム パネルディスカッション」

日程:2020(令和2)年11月28日(土) 時間:13:30~16:30 会場:ソバラ屋2F及びコチャエ

【テーマ】岡山芸術劇場とこれからの表町

【登壇者】

〇パネリスト:大森 雅夫(岡山市長)
       草加叔也(岡山芸術創造劇場スーパーバイザー)
       深谷 千草(ありがとうファームアート部門担当)
       矢部 久智(表町商店街連盟事業推進部長)
       世良 利和(映画史研究者、岡山理科大学兼任講師)

〇コーディネーター;遠藤 寛子(フリーアナウンサー)

≪概 要≫

~ 劇場に期待することは?

【矢部】

劇場ができれば万歳!ではない、と思っております。

劇場ができれば、確かに人の流れは変わるかもしれないけれども、主体的にまちが変わっていかなきゃ駄目なんじゃないのかなと考えています。劇場ができることで交流人口が増えますから、これをどうやってチャンスに変えていくかを、表町の商店主をはじめみんなで意見交換しながら、小さいですけども積み上げているところです。

 

 

~ 劇場をこの地区につくろうとした経緯は?

【大森】

  市民会館は、築60年ぐらいで老朽化しております。また、市民文化ホールも同じように老朽化しています。そして、耐震上の問題があるという話が出て、建て替えざるをえないと。ここから話はスタートしたんです。

どうしようかっていったときに、全体の半分近くは国からお金が流れてくる「合併推進債」っていう起債が利用できるっていう話がありまして、今の市民会館と同じじゃなくて、もう一歩、進んだものをつくっていこうじゃないかというふうに考えたんです。

進んだものとは一体何かといいましたら、今の市民会館では見れないような、そういった公演・お芝居だとか、いろんなものを呼んでくることもできるようにしようっていうことが最初にあったんです。が、それだけじゃなくて、新しく、そこで音楽をつくる・演劇をつくる、そういった文化活動・文化創造ができるようなもの、そして公演が無い時でも、人が集えるような、そういうものにしていこうと考えました。

次にどういった所につくるのがいいだろうと考えたんですが、今、商業施設という面ではJR岡山駅周辺が非常に人が集まりやすい場所になっています。でも、岡山の歴史・文化、こういった集まりがあるのは、この岡山城・後楽園を中心とする表町周辺ではないかと。実は千日前っていうのは、ピークの時に比べると、人通りは10%以下なんですね。こういった所に、新しく劇場をつくっていくと、大きくまちを変えるインパクトになるんではないかということで、この千日前に劇場をつくるということにさせていただきました。

 

 

~ どのような劇場ができるのか?

【草加】

1階の南側の道路に面して大劇場、中劇場があります。オランダ通りと千日前商店街は広場で繋がれて、行き来ができるように計画をされております。

2階にはオープンロビーがあり、劇場で公演をやってないときには、常に開こうと思っております。できれば、コーヒーが飲めたりWiFiが使えたりするような環境があるといいなという話をしております。

3階には情報展示ギャラリーがあります。この情報展示ギャラリーは、両壁面には展示ができるピクチャーレールなどを用意しておりますので、これを使っていただいて展示ができる。なおかつ、アーカイブスとなるような書籍あるいはチケットを売るというようなコーナーもできるかもしれません。

4階に移りますと大練習場を用意しました。8間角(約14,5m四方)ぐらいの大きさがありますので、大劇場の舞台に近い大きさを持ってると思っていただければいいと思います。この大練習場の前は、屋上緑化もされている広場になっており、気持ちのいい練習場になるだろうと想定しています。

地下2階ですけれども、高さが6メーターぐらいの天井高を持っている小劇場を用意しました。一番大きいとこだと10間角(約18m四方)ぐらいあるんですけれども、吹き抜けてるところで8間角(約14,5m四方)ぐらいの大きさがあります。それから、南に下ったところに、もう2つ練習場があります。

地下1階には製作工房があります。道具を作ったり、衣装或いは幕類を塗ったり、それから、ベニヤを切ったり、鉄のパイプを切ったり、それから、溶接ができるような部屋を用意しております。簡単な道具は作ることができる。小道具も少し作ることができる。或いは直すことができる。秘密基地が地下1階にあります。

2023年に向けて、一生懸命、整備をしているところです。この劇場を通して、舞台芸術への関心人口をつくっていきたいと思っており、結果として交流人口を増やしていきたいと思っています。

 

 

~ 劇場で、どんなことができたらいいと思うか?

【深谷】

11月に行われた、表町商店街を舞台にした「わが町ミュージカル」で、地元企業からの廃材などを利用して衣装作りを担当させていただきました。なので、ありがとうファームの障害を持った方とアーティストと一緒にコラボして、協働事業というものをまずやってみたいなと思っております。これが1つ目です。

2つ目は、舞台といえば照明が素晴らしいので、舞台照明を使い、身体表現とか体を使ったワークショップっていうのをぜひやってみたいなと思います。木下大サーカスさんは照明が素晴らしいと思いますし、自分の影が大きく見えたりぼやけたり、ピンスポットライトが当たったりとかそういったことを舞台でできたら、どれだけ楽しいかなと思っております。

3つ目は、これは夢ですが、私たちのありがとうファームでは、岡山の伝説的なバンド、ブルーハーツのコピー版のグリーンハーツというバンドをやっております。劇場ができた際にはぜひ甲本さんとコラボレーションして、ライブをしたいという夢があります。

最後に、廃材リユースのアトリエを、ぜひ、私たち民間の小さなところではなく、岡山市で、取り組んでいただけると、素晴らしいのではないかなと思っております。イタリアのレッジョエミリア市っていうのは市を挙げて取り組んでおりまして、イタリアの企業が、廃材を素材に使えるものに限りますが、提供して資材をストックしている素材倉庫というものを作っております。そこに教育関係者がアクセスして、それを教育現場に持ち帰って使っている。

姉妹都市とか、そういう感じで連携を結んで、大きく飛躍する都市になると素晴らしいなという夢を見ております。

 

【世良】

内田吐夢の生家跡が劇場の目の前なので、地元が生んだ大監督の作品上映会をできれば定期的にやりたいなというふうに考えます。

それから、新しい劇場にはギャラリーがあるということなので、アーケードに下がっていた看板、映画館の名前のついたのもあったと思うんですけども、ああいったものも含めて地元に残る千日前の歴史が伝わるような資料展示みたいなものを定期的にやっていただけたらなというふうに思います。

 

 

 

~ 地域との連携について

【草加】

整備に向けた基本計画の中に、「つなぐ」っていうキーワードがあります。

舞台芸術は、それを見る人がいて、それを演じる人がいて、それから舞台だとか照明だとかを作る人がいて初めて成立する芸術です。オンライン配信という新しい価値感ができ始めてるんですけれども、空間と時間を共有するのが舞台芸術の最大の魅力だと思ってるんです。そんなことを、地域の皆さんといろいろやってみたい。

穂の国とよはし芸術劇場は、高校生と作る演劇授業というようなことがやられています。それも、毎年、新しい作品を作っていくということですね。北九州芸術劇場では、北九州空港に就航しているスターフライヤーさんと一緒にダンスを作って、それをプロモーションビデオとして機内で流すっていうことをやっています。また、Jリーグのギラヴァンツ北九州と一緒にダンスを作って、応援時間にはみんなでそれを踊るっていうことをやったりしています。ファジアーノとかシーガルズと一緒に作品を作るっていうことも、劇場ができることかなとも思います。

それから、新潟市民芸術文化会館「りゅーとぴあ」というところは、日本で唯一、専属の舞踏団(ダンスカンパニー)を抱えている公共劇場なんですけれども。ダンスカンパニーと一緒に作品を劇場で作っています。また同じように、ミュージカルカンパニーがあって、それは子供たちのためのミュージカル作品を作っていく、そういうことを目標にされています。

アーティストが住めるまちにするっていうのは、我々が目指している1つの目標ですので、そういうこともあってもいいと思います。

それから、東京の豊島区ではダンスカンパニーと一緒に盆踊りを今作ってます。ぜひ、岡山でも、2023年の夏には、一緒に新しい盆踊りを、岡山芸術創造劇場の盆踊りっていうのもできてもいいかなというふうに思っています。

劇場の中だけではなくて、我々は地域と関わって、舞台芸術・音楽芸術の魅力を活かした活動をやっていきたいと考えているところです。

 

 

~ 行政の支援について

【大森】

人が主役のにぎわいづくりっていうのが本当に必要なんだなというふうに感じてます。

そういう面で今、行政はあくまでサポート役ではあるんですけれども、じゃあどういうサポートをしていくかって、今まで考えて参りました。その1つが、岡山駅周辺と、岡山城・後楽園、そして表町との間をどういうふうにうまく結びつけていくかということであります。後楽園・岡山城で幻想庭園、そして烏城桃源郷をやってますけれども、30万個のLEDが、夕方になると光輝いています。

それから皆さん方、数年前と比べて全然違うと思っていただいてる方もいるんじゃないかと思うんですが、桃太郎大通り、昔は剪定が激しくて丸坊主の木々しかなかったものが、今、生茂っているはずであります。歩いていくと、それなりの情緒が出てきて、県庁通りの1車線化も、来年の3月には西川まで完成いたします。そうなると木々が生い茂りベンチも置かれるような、そういう、ゆったりした、歩くにふさわしい歩道ができてきます。1年経つと東側にもということになります。

またJR岡山駅で降りた人たちが、路面電車に乗って劇場まで行けるような計画もでき、岡山駅前への乗り入れなども具体的な工事に入っていくところであります。

こういう東西の流れを良くする、人の流れを良くするっていう動きをひとつひとつさせていただいています。

それから、石山公園も動きが、ちょっと変わってますよね。ピザのお店ができたり、河川敷もジョギングできるようになりました。

岡山城も、我が岡山が生んだ、磯田道史さんに監修をしていただいて、歴史を本当に概観できる場所に変えていこうと、こんな動きもしているところであります。

劇場の誕生を見越しながら、民間のいろいろな動きもあります。我々のサポートが、この民の動きをさらに活性化する大きな要因になるんじゃないかなと思ってます。

 

 

~ どのような「まち」に魅力を感じるか?

【深谷】

この表町・千日前地区の歴史を「いどばた会議」で教えていただきました。木下大サーカスさんとか劇場とか、いろんな歴史を感じる資料館ももちろん必要だなと思うんですが、街を歩くだけで、その歴史が感じられるまちづくりというのも是非していただけたらと思っておりまして、例えば、サーカスの時の街灯のようなものがこの商店街にあって、夜になると影が大きく見えたり、そんな街灯がぽつぽつあるような、もしくは、路上のタイルとかで、サーカスの歴史や動物とか、マンボウとか鯨とか、いろんな動物がこの辺にいたということが、歩くだけでわかるというものも素敵だなと思っております。

あと、見せる工房っていうのが商店街にできていったらいいなと思っております。空き店舗に、例えば教育芸術文化に特化した団体とかアーティストとかNPOとかを公募して、ガラス張りなんかにして、資料を調べている人がいたり、職人さんが何かを修復していたり、アーティストが絵を書いていたりとか、そういった形に店舗を提供するというのを商店街をあげて取り組んでいただければ、岡山芸術創造劇場までの動線が魅力的で膨らんでくるのではないかなと思っております。

 

【世良】

地域が積み重ねてきたいろんな歴史が感じられるまち、いろんな方法があると思うんですけれども、タイルとかマンホールのふたとか、そういったことも当然あると思います。

もう1つ、例えば映画館の写真や8ミリ、ビデオなど、そういったものの中には、昔のまち並みとか、いろんな情報が入っているんですが、多分皆さんの家庭の中に、眠っているものがたくさんあると思います。が、今どんどん捨てられています。そういったものが価値の無いものかというと、そういうことではないと思います。

市民の皆さんに声をかけながら、一緒に過去を掘り起こして、それをちゃんと伝えていく。そういったことが感じられるまち。そういうのを私は願っています。

 

 

~ 劇場の姿が見えてくるようになると、お店も増えてきたり活気づいてきたりすると思うが、長く継続して、この地で商いが続けられるようにするための環境づくりをどう考えるか?

【矢部】

チャレンジしやすい、このまちでチャレンジしてみたいなと思ってもらえるような、そういうまちづくりを皆さんと一緒にしていきたいなと思ってます。私たちは地域の人間なので、例えば空き店舗の活用だったら、オーナーさんと繋がりがありますので、家賃を下げるということなのかもしれませんけれども、取り組まなきゃいけないことなんだろうと思ってます。

だんじりや日限の地蔵さんなど、地域住民とのコミュニティも大事にしながら、そういうものもきちっと引き継いでいきながら、アートとかパフォーマンスとか音楽とか芸術に繋がるような、そういうものを大切に育てていきたいなあと思っています。

一緒に活動できるプレイヤーが本当に欲しいと思います。

 

 

 

~ 劇場を中心としてどのようなまちを目指していくか?

【大森】

歴史っていうのは重要だろうと思います。過去の流れがあって今我々がいるわけですから、そういう歴史の本質っていいますか、「不易流行」っていいますけども。本質の部分を大事にしていく。変えなきゃならないものはもちろん変えていくんだけど、本質の部分は大切にしていくっていうことが重要だと思ってます。

新劇場は、「魅せる」「集う」「つくる」という3本柱で動いていくんですが、人々が成長する過程の中で様々な体験をしていただきたい。そして、刺激を受けていただきたいと思っています。

これからこの劇場を担っていく専門的な人達が、若者など様々な方々と、ひとつひとつ行動をとっていくなかで、従来のものではない化学変化が起こってくるんじゃないかと期待しています。

いろんな刺激を受けて、より「まち」が賑わって、知的興奮を起こすような、そんな「まち」になっていくといいなと思っております。

 

 

〔質疑応答〕

(会場からの質問)

・演劇が本当に好きな人は都市にある大きな公演がある劇場に向かうと思う。岡山市は

高齢福祉に力を入れているので、高齢者や介護が必要な人、障害のある人などに力を入

れていく将来しかないような気がする。そのようなまちにおける劇場のあり方をどう

考えるか?

【草加】

「劇場、音楽堂等活性化に関する法律」という法律があって、その中には劇場とは、どういう事業をやるところかっていうことが書かれてるんですね。8項目示されています。

その中の8番目に、社会包摂的な機能を持ちなさいということが書かれています。社会排除ではなく社会包摂をつくっていくんだっていうふうに書かれてるんです。ですので、高齢者、子供、障害を持つ方、そういう方たちにも門戸を開いていくということは、当然の使命だと思っていますので、それは必ず実施していきます。

こういうことをやっていくっていうのは、これから具体的にお見せしていきたいと思いますが、劇場だけが単独でやろうなんていうことは全く思ってないので、岡山にそういう組織があるんだったら協力をして、物を作っていき、それから見せていき、交流していくっていうことになりたいと思っています。

 

(会場からの質問)

・子供や高齢者ではなく、30代から50代の人たちの認知が高くならないと意味がないと思う。

その世代に向けての企画があるか?

【草加】

今、大都市圏では、家庭に入られてる女性なんかにも見ていただきやすいようにっていうことで、平日や昼公演が大変多くなってきています。そういう意味では、昼にも見えるようにし、それから、働いてる方たちにも見れるように7時以降の公演を考えていくっていうのが必要になってくるんだろうと思っています。いろんな努力をしたいと考えてるところです。

岡山ではこうすることが、さらに良くなるんだというような情報があれば、ぜひ教えていただきたいと思っています。

 

(会場からの質問)

・劇場を拠点にした専属の文化団体を有する計画はあるか?

【草加】

今のところ、スタート時点で、専属の劇団があるということはありません。

ただし、将来、芸術監督を置くということもあるかもしれませんし、それから、専属のダンスカンパニー、或いは、劇団をつくっていくっていうことも当然視野にはあると思います。

 

(会場からの質問)

・空き店舗は、商売よりも、芸術文化、音楽をやる人々、NPO団体などに拠点として入居してもらう方がよいのではないか。そこを市が支援できないか?

【大森】

例えば所有者が、そこに一定の土地を持つ「まちづくり会社」なんかに使ってくださいよと言って、それを違う人が、私はここの土地を使ってやっていきます、ということで、利用し、その一定の利益をその所有者に渡していく。こういうシステムができるといいんですけどねえ。

空き店舗の関係では、ヨーロッパ、特にフランスなどでは、市が買い取ってやるっていう制度もないわけじゃないんですけど、それを我が国でできるかどうかっていうと、なかなかまだ、トライしたところがないんで、スキームをすぐに作るってのはちょっと難しいかなと思っています。

商店街の皆さん方と相談しながら、少しでもいいシステム作っていくっていうことを、一緒に考えたいと思います。